モーション・ピクチャー・シューティング

MOTION PICTURE SHOOTING 自主映画制作記

続・狙撃手の言葉

前回より続き。

 

警察のSWATより陸軍のデルタ・フォースを参考にして設立されたという米国 FBI の特殊部隊、

Hostage Rescue Team。

戦場のような犯罪捜査現場に飛び込んでいく軍隊。

そこのスナイパーであった人の著書では、過酷な訓練の模様、戦闘を目的とする組織の有り様、

その組織の一員の心理など、参考となるものが沢山ありました。

(p203より)

だいたいにおいて、意識の奥でトラブルが起こるのを願いながら、平和であることに我慢して過ごす。

消防士はそういう感覚を知っている。プロボクサーも。拳銃使いも。

自分が楽しんでいることをだれも認めようとしない。ひとの苦しみをネタにするビジネスなのだ。

 

著者は日本でもニュースになった武装カルト教団が籠城した事件(1993)の現場で、敵スナイパーを探索するカウンター・スナイパーの任務を行っており、この時の描写も大変参考になりました。

 

しかし、厚い著書を読み終えて一番私の心に残ったのは、

狙撃とはなんの関係もない、訓練や実戦の模様とは程遠い、

著者がまだ社会に出る前の一人旅の記憶の章でした。

 

以下、

2010年度のメモ帳に書き写したものを基に引用します。

脱字があり、本文と正確に一致しないところがあるかもしれません。

 

(p354より  たしか、ヨーロッパ方面への旅行の道中の思い出。

若いころの著者は列車の中で、パレスチナ人の老人と出会います。

老人はペルシャの詩人の作品を紹介しながら、著者と会話します)

上着のポケットは見たか?いちばん大事なものはたいがいそこに入れてるじゃないか“”

“わかってる。でもそこになかったら、ほんとうにがっかりするはずだ”

“あんたはどこを捜す? ひょっとしたら見つかるかもしれないという場所を、何度もくりかえし

探すのか?

それとも取り返しのつかない損失という危険を冒し、あるはずだと確信する一つの場所へまっすぐ

行くか?

前者はたやすい、後者はつらい”

 

ほんとうに大事なものをしまってあるポケット・・・・

多くの人が自分のポケットの場所を知っている。

でも、そのポケットの中に手を入れるかは、人それぞれ。

みんなはどうですか?

「私は、ひょっとしたら見つかるかもしれないというテキトーな場所をウロウロしたりしない。

がっかりするかもしれないけど、確信がもてる場所にまっすぐ手をのばす。いつもそうしている」

そう言える御仁もいるでしょうね。

私自信は昔一度だけ、そのポケットに手を入れたことがあります。

そこには、確かに自分にとって大事なものがありました。

いくつも、いくつもありました。

芋づる式に探り当てられました。

楽しい事は少なかったです。

でも一度入れた手を止められない。

どんどんポケットの奥深く、底を目指しました。

最後の一かけらまで、大事なものを掴もうと。

そしてある日、底までたどり着きました。

そう思えた。

ですが、

実は“底が無い”事に気づいたのです。

その時の感触を今でもハッキリ思い出す事ができます。

あるはずの底がなかった。文字にすれば背筋が凍る思いだったとしか書けません。

私は、

ダッシュで引き返しました。

昔話で追ってくる山姥から逃れる若者のように。

全速力で逃げ帰りました。

 

あの時走ってこれたから、今こうして文章にも出来ています。

後悔はしていません。

あの時、ポケットの中で掴んだものは今でも大事なものです。

そして自分のポケットが、歴史上、作家と呼ばれた人たちが探り当てたポケットと同じ位置にあるものだったと、後にわかったからです。

 

あれから十数年。

今、映画を創っている私になにかが語りかけるのです。

「もう一度、ポケットに手を入れろ」

 

おそろしい。あんな思い、二度と御免だ。

でも、

そうしないと・・・

映画は完成しない。

私は実はわかっている。

こんどのポケットの位置も。

                            参考文献

            『対テロ部隊 HRT_FBI 精鋭人質救出チームのすべて』

                クリストファー・ウィットコム 著

                          伏見 威蕃 訳

                           早川書房 刊(2003)

 



今年に入ってから、

無性に『ロッキー』が観たいと思っています。

アルコールのCMでテーマ曲の替え歌がかかっているせいもあるかな。

手持ちのDVDでこれから観よう。

本当の勇気がもらえるといいな。子供のころ観た時のように!